こんにちは。
白髪老師のサバ男です。
外国人に日本語を教えています。
日本語教師になって日が浅いころに受け持ったレッスンでの出来事。
ある生徒さんから「God bless you. は日本語で何と言うのか?」という質問を受けました。
ちなみにインドの人です。
直訳すると、「神のご加護を」となりますが、日常そんな表現を使う人はまずいません。
英語でよく使う表現だからこそ質問してきたわけですが、英語ネイティブがどんな状況で使うのかよくわからないので、次のレッスンまでの宿題にしてもらいました。
英語が得意な同僚の先生や、フィリピン人の知り合いなどに聞いてみましたが、みんな苦しげな表情を浮かべるばかり。
あえて言えば「お大事に」とか、「がんばって」とかになるらしいですが、なかなか日本語でぴったりする表現はないようです。
その生徒さんには、God bless youを使うだろう状況毎に説明しました。
このように、母語の表現が学習する言語にあるとは限りません。
日本人が英語を学習する時も同じです。
英語学習には英語でやるのが結局は効率的です。
これから見ていきましょう。
外国語学習は直接法が標準です
外国語を学習するとき、学習対象言語で教わる方法を直接法といいます。
英語なら、教師は英語で説明する方法です。
外国人に日本語を教える時も、日本語で教える直接法が使われることがほとんど。
これは生徒の母語が複数に渡ることもありますが、日本語独自の表現は日本語で理解してもらう方が簡単だからです。
例えば、以下の二つの文があります。
フミオさんがアメリカに行きました。(a)
フミオさんはアメリカに行きました。(b)
いずれも実にシンプルな文ですが、英語にするとどちらも同じ文になります。
Fumio went to America.
英語で理解されてしまうと、「どちらも同じでしょ」ということになり、「は」と「が」の違いがわからないままになってしまいます。
私なら補助線として疑問文を提示して、ペアで説明します。
誰がアメリカに行きましたか?
フミオさんがアメリカに行きました。(a)
フミオさんはどこに行きましたか?
フミオさんはアメリカに行きました。(b)
(a)は「誰が」アメリカに行ったかの説明で(b)は、フミオさんは「どこに」行ったかの説明ということになります。
(a)と(b)を逆にしてしまうと、意味はわかりますが不自然さが出てきます。
この不自然さはFumio went to Americaという英文から理解するのは難しいでしょうね。
もちろんこれは日本人が英語を学習するときもあてはまります。
日本の単語集だけで英語を考えてはいけません
ある米国製の英語教材でみた英文です。
I hope I’m not being too forward.
どういう状況の会話かというと、お店の主人が常連の女性客に結婚を勧めた時に、女性客の返答について再度言ったときのもの。
この文のキーワードはforward。
forwardは「前に」という意味で使われることが多い言葉です。
なので、普通の日本語の知識で考えると、
「僕が前過ぎていなければいいんだけど。」
ということになります。
状況としては意味不明です。
その教材には単語の意味の説明もありますが、それによるとforwardは「出しゃばり」という意味で使われていました。
したがって上の文の意味は、「僕が出しゃばりすぎていなければいいんだけど。」となります。
これならわかります。
英和辞典でも「でしゃばり」の説明はありましたが、かなり下のほう。
日本語の単語集の訳語とペアで覚えていたら、ちょっとでてこないでしょうね。
ただ、forwardが「前に」という概念で考えたら、なんとなく理解できると思います。
お互いの人間関係で許容できる一線を超えたという感じになりますから。
この例でわかるとおり、訳語とペアで覚えていくのはある程度のレベルを超えると全然理解できない状況になりかねません。
ちなみに、forwardは英検だと準2級、TOEICでは600点レベルでの単語です。
それぞれの単語の本をみてみると、英検は「前に」で、TOEICは「転送する」の意味しか書かれていませんでした。
もしTOEICだけ勉強していたら、絶対にわからない表現です。
試験対策も大事ですが、それだけだと落とし穴が待っているいい例でしょう。
英語の中級者以上を目指すなら英語で理解する練習が必須です
初心者であれば、使いたくても知らないのでシンプルな表現しか話すことはできません。
しかし中級者以上になると、いろんな表現が身についてきます。
どんな状況でどんな表現を使うのか、TPOに応じて取捨選択しなければいけません。
これは日本語学習者でも同じで、ある程度の表現で話せる人が「ですます調」で話しているのに、つい友だち言葉が混じってしまうことがあります。
聞いている方は日本人と話しているような感覚になっているので、ずいぶん失礼な人だなと思われてしまうのです。
これの対策は、徹底したインプットとアウトプットの繰り返ししかありません。
中級者向けの日本語レッスンでは、説明力を養うレッスンがあります。
初めに例となるスピーチ文を示し、その構成に基づいて日本語でスピーチ文をつくってもらいます。
初めて作ってもらう時は、もうぐちゃぐちゃで、何を言いたいのかさっぱりわからないことがほとんどです。
使うべき語彙や接続詞、それに構成などは一度や二度のレッスンでは身につきません。
何度も何度もネイティブスピーカーのチェックを受けて習得できるのです。
ここでは日本語以外入る余地はありません。
初心者であれば、初めの頃の理解では母語で説明された方が理解できるかもしれませんが、母語とは違う習慣や表現が必ずあります。
冒頭であげた、God bless you.もそうでしょう。
日本語で理解してもだめで、使われている状況も踏まえて英語で理解するのが、結局は効率的なのです。
まとめ
母語の知識が邪魔をして、外国語を使う時に不自然な表現になってしまうことを負の転移といいます。
すでに日本語で英語を勉強した人がほとんどなので、厳密に負の転移から逃れることは難しいでしょう。
外国人向けの日本語テキストには日本語の会話といっしょに英語で説明されているものがあります。
時々、これ使って英会話を勉強しようかと考える人がいますが、あまりおすすめできません。
日本語の会話を英語で説明しているだけにすぎず、英文での会話が日本以外で普通に行われているかはわからないからです。
ベースはあくまでも、英語が話されている環境での会話であるべきです。
英語は中国語に次いで世界で二番目に話されている言語ですから、英語で作られている英語の学習教材は多くあります。
日本語で作られた教材にも優れたものはあるでしょうが、どうしても日本語の軛から逃れることはできません。
特に中級以上では。
TOEICでは945点以上がCEFRでの上級者レベルのC1に相当するとしています。
これは945点取ったからC1なのではなく、C1相当の実力を持っている人なら945点取るという意味でとらえるべきでしょう。
そしてその英語力を身につけるには、英語を使っての学習が結局は早道なのです。
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